辛い時の気分転換 ー「52ヘルツのクジラたち」を読む

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■はじめに

「悩みがあったら一人で抱え込まずに誰かに相談しましょう」ということを
よくいわれると思います。
でも友達には知られたくないこともありますし、家族にも言いづらいことってあったりしますよね。


知られたくない理由や、言いづらい理由は色々あると思います。
仲の良い人とは楽しい時間を過ごしたいからマイナスなことは言いたくないとか、
思い切って相談して引かれたりしたらどうしようといった気持ちもあります。


しかも、どのくらい悩んでいるかの温度感ってなかなか伝わらないんですよね。
私の場合だと、本気で悩んでいて相談したいのに、
他の人からしたら些細なことで受け流された経験がありますし、
その逆に軽く相談したら重く捉えられてしまったこともあります。


結局のところ、他の人の気持ちや考えを100%理解することはできないので、
それぞれの人が自分の気持ちを抱えて、吐き出す場もないまま、
適当に向き合っているのではないかと思います。


でも抱えているものが大きくなりすぎたら、自分では抱えきれなくなります。
その許容量は人によって違いますし、些細なことが積み重なって溢れてしまうこともあります。
もしかしたらいつも元気なあの人も本当は心の中で苦しんでいるかもしれません。
心は悲鳴を上げていてもなかなか気づいてもらえない、そんな状況が世の中にたくさん
あるんだろうなと思ってしまうのです。


そういった心の叫びを癒してくれるのが、
町田その子さんが書かれた『52ヘルツのクジラたち』という本です。
映画化までされているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。


この本を読むと、心の中で叫んでいるのは自分だけじゃないことに気づき、
他の人にもより思いやりを持って接することができるようになりました。
簡単なあらすじや所感を書かせていただきます。
ネタバレを含むので、ご注意ください。

■あらすじ

ある女性(キナコ)が東京から海辺の街に移り住むところから始まります。
そこで一人の子供と出会いますが、その子供はどうやら虐待を受けていて、
喋ることができなくなってしまっているようでした。


キナコは、その少年を「52」と呼ぶことに決め、一緒に過ごす時間が少しずつ増えていきます。
街で過ごすうちに、52の生い立ちや現在の家庭状況を知ることになり、
なんとか52が明るく暮らせる居場所を見つけようと奔走します。


その合間で、キナコの過去についても明かされていきます。
キナコは幼少期から家庭内で邪魔者扱いされていました。
母親の連れ子だったこともあり、愛情をあまり与えられずに育ちました。
それでもキナコは母親に愛されるために努力をします。


キナコは本来母親がすべきことを自分でこなして、周囲から母親が悪者に見えないように立ち回ったり、
母親に暴力をふるわれても母親の愛を待ち続けたりしていました。
父親が病気になると介護に追われ、家庭環境はさらに悪化していきます。
そして、結局母親から愛情を向けられることがないまま、キナコの頑張りが限界を迎えた時に、
学生時代の友達の美晴と、その同僚のアンさんに出会います。
その二人に支えられて、徐々にキナコの心は回復していくことになります。


しかし、大人になってから経験することも、
キナコに心の傷を残すことになってしまいます。
アンさんや新たにできた大切な存在を失ってしまうのですが、
キナコにとって痛すぎる出来事でした。
そして、落ち込んでいたキナコは新たな生活を送ろうとして
海の街に移住してきたのです。


そんなキナコが今現在苦しんでいる52に寄り添い、
クジラの声を聞かせます。

「このクジラの声はね、誰にも届かないんだよ。
・・・
クジラもいろいろな種類がいるけど、どれも大体10から39ヘルツっていう高さで歌うんだって。
でもこのクジラの歌声は52ヘルツ。
あまりに高音だから、他のクジラたちにはこの声は聞こえないんだ。」
本当はたくさんの仲間がいるのに、何も届かない。何も届けられない。それはどれだけ、孤独だろう。

この話を聞いた52は声を上げられないまま泣き出します。
それから徐々にキナコに対して心を開くようになり、
キナコは52のことをさらに気にかけるようになります。
最終的には52の母親や親族を巻き込んで、ある時には対決していき、
クライマックスに向かっていきます。


全体的に最初からずっと暗い雰囲気が続きますが、
最後は良い将来に向かって良い形に収まり、ハッピーエンドといった内容になります。

■所感

このお話は
①キナコと52の話(現在)
②キナコの過去
が交互に入れ替わりながら進んで行くのが、読者にとっては良いアクセントになっていると思います。
①も②どちらも重い話なのですが、本当に辛いシーンが長く続くわけではないため、
一息入れることができます。


触れたい場面はいくつもあるのですが、一番苦しかったのは、
キナコの子供時代です。
自分は感情に乏しく、滅多に怒ることはないのですが、
こんなことがあって良いのか、というキナコの家族への怒りが収まりませんでした。


子供にとって親は絶対的な存在であり、逆らうことは難しいですし、
大人ならおかしいと分かることでも、子供は分からないはずです。
ひどい母親であっても、褒めてほしいから健気に努力する姿に胸が痛くなりました。


似たような話は現実にもあると聞いたことがあります。
それこそ誰にも届かないところで心の中で悲鳴を上げているのかもしれません。
自分に何かできる力があるとは思えませんが、できる限りアンテナをはっておいて
声を拾えるような存在でありたいです。
虐待に限らず、苦しんでいる人に対して寄り添えるような人間でありたいと思います。


あらすじに細かく書けなかったですが、他に大事な要素として、
アンさんの存在や、主税(ちから)との関係もあります。
アンさんの話の展開にも心揺さぶられましたし、
心の声を拾うことの難しさを改めて感じました。


自分が苦しんでいるにもかかわらず、他人のことを気遣い、
思いやれる人はとても魅力的に映ります。
52を思いやるキナコも同様に大好きになりました。
ちからについては省略してしまいますが、また別の意味で心揺さぶられました。


もしこの記事を読んでくれた人の中にも苦しんでいる人がいるかもしれません。
話せる人がいなくて独りで悩んでいるかもしれません。
世の中には同じように誰にも聞こえない心の叫びをあげている人がいると考えたら、
少し気が楽になるでしょうか。


自分のことでそれどころではないと思いますが、
そんな時だからこそ周りの人を心から思いやりを持って、
接することができたら素晴らしいことなのではと思うようになりました。
すみません、人に言えるような立場ではないのですが、自分ではそう思うようにしています。


自分の本心は誰にも見えないので、真に理解してもらうのは難しいです。
でも大事な存在がいるだけで心の支えになります。
大事な存在ってまずは自分から相手を心から思いやることで、
相手からも返ってきたりするんじゃないかというのと、
誰かを思いやれる自分の方が、自分にも優しくなれます。
何よりキナコやアンさんのような存在が眩しすぎて、
自分もそんな人間を目指して、そう思い込むようにしています。


この作品を読むと自分の抱えているものが軽くなり、
人に優しくなれたと感じています。
2、3回大泣きしてしまいましたが、また定期的に読み返したいと思います。

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